平成27年度介護保険制度改正に向けた提言
当会では、平成27年度介護保険制度改正に向け、会員の皆様より声を集め、去る12月11日に東京都。12月12日に厚生労働省にそれぞれ提言を提出致しました。本HPにて皆様にご報告し、提出した提言を以下に掲載致します。
平成25年12月11日
介護保険制度改正に向けた提言
特非)東京都介護支援専門員研究協議会 理事長 千葉 明子
本年8月6日に社会保障制度改革国民会議の報告が示され、これを受けて国は社会保障制度全般にわたる改正に着手し、来年の通常国会に関係法案が提出されようとしております。介護保険制度においても、要支援者を保険給付の対象から段階的に区市町村事業に移行するなど制度を大きく変える内容が提案されています。 私たちは、介護保険法を見直すのであれば、要介護高齢者の尊厳を守り、自立を支援するという介護保険法の基本理念に即したものであるべきものと考えます。 私たち介護支援専門員は、介護保険制度の要として、また利用者の代弁者として、介護保険制度の中軸を担うとともに、介護現場からの意見を発信していく役割を担っています。利用者の日常生活を支援する体制を根幹から揺るがしかねない今回の改正による利用者への影響を危惧しております。 東京都の介護支援専門員の職能団体として、利用者の尊厳ある暮らしを守るため、ケアマネジメントの向上と、都民が安心して利用できる制度を目指し、以下のとおり制度改正に向け提言いたします。
1 要支援者の区市町村事業への移行は延期すべき 要支援者を給付対象から区市町村事業に移行することにより、区市町村による受け皿としての基盤整備が十分できるのか、その際区市町村間のサービスに格差が生じるのではないか、との懸念があります。また、平成18年度改正において創設された介護予防事業の効果測定が明確になされないまま、今回区市町村事業へ移行することは、結果的に要介護状態の悪化の防止に資するケアマネジメントができなくなる結果となりかねません。要支援者に対するケアマネジメントの機能があることにより、悪化に繋がる要因と予後を早期に見極め、また要介護状態になった場合においても、的確に介護支援に繋ぐことが可能であったはずです。 このような懸念がある状況では区市町村事業への移行は一定期間延期すべきです。
2 低所得の軽度者が入居できる住まいの整備を 要介護1、2の軽度者でも、認知症の状態や精神症状、虐待などにより在宅での生活継続が困難となる高齢者が存在します。全ての要介護高齢者に、そのニーズに応え、安心して暮らせる住まいという選択肢を確保することは、介護保険制度の信頼感に繋がると考えます。 特別養護老人ホームの対象から一律に軽度者の利用制限をするのではなく、代替施策がない場合には、入所できる仕組みを設けるべきです。また、サービス付き高齢者住宅等を利用できない低所得高齢者のための住まいの整備を早急に講じるべきです。
3 介護支援専門員の法定研修のあり方について (1)実務研修にインターンシップ制の導入を 実務研修については、受講後一定レベルのケアマネジメントの習得が できるよう、特定事業所等での一定期間のインターンシップ(現場実習)をカリキュラムに含めるなどの大幅な見直しを図るべきです。 (2) 更新研修に単位制の導入を 専門研修Ⅰ・Ⅱ、更新研修については、5年に1度期間指定でまとめて受講する方式は、受講者に業務遂行上大きな負担を与えています。 現在の方式を改め、毎年科目を選択して受講でき着実にスキルアップで きるよう、単位制を導入し、個人ごとの受講履歴が把握できる仕組みとすべきと考えます。 この仕組みの中で、居宅の介護支援専門員でも施設ケアマネジメントの 科目を受講できるようにするとともに、多様な住まいのあり方や施策の現状理解を促進する科目を充実することにより、全ての介護支援専門員の基礎的な資質向上を図るべきです。また、2度目以降の更新研修の受講者にも有意義な内容となるよう、受講者のレベルに応じた内容とすべきです。 (3)全ての法定研修に医療系科目の充実を 在宅療養者の増加による医療と介護の連携の必要性が増すとともに、 基礎資格が福祉系である介護支援専門員の増加など近年の傾向を踏まえ、ケアマネジメントに必要な医療系知識及び医療系職との連携の実践手法等を集中して学ぶ機会を研修体系の中に位置付けるべきです。
4 居宅介護支援事業所の主任介護支援専門員の活用を 地域包括ケアシステムを目指す上で、地域包括支援センターの主任介護支援専門員と、居宅介護支援事業所の主任介護支援専門員は、ケアマネジメント支援における「両輪の機能」と言われているにも関わらず、養成された居宅介護支援事業所の主任介護支援専門員は、役割を活かす機会がないまま地域に存在する状況が見受けられます。また、保険者によって対応にばらつきがあることにより、本来求められている機能を十分発揮できる環境が整っていない実態があります。 上記の実態を踏まえ、介護支援専門員全体のレベルアップを図るために居宅介護支援事業所の主任介護支援専門員の役割について以下のように提案します。 ① 居宅介護支援事業所内及び地域の実務従事者へのOJTの担当者と位置付ける。 ② 3-(1)で提言した実務研修のインターンシップ制(現場実習)の担当者とする。 なお、その役割を的確に果たすために、主任介護支援専門員のフォローアップ研修の制度化を強く要望します。
5 地域包括支援センターの機能の充実を 地域包括ケアシステムを確立するためには、地域ケア会議の開催など中核的な役割を担う地域包括支援センター(以下、「センター」という。)がその機能を十分に発揮することが不可欠です。 センターの機能を充実するため、配置する人材の確保・育成及び財務基盤の強化を図るとともに、区市町村内のセンターの核となる機能を強化したセンターを1か所設置すべきです。 また、センターの機能は配置される人材の力量によることから、例えば、主任介護支援専門員は一定期間の居宅介護支援事業所の実務経験があることを配置条件とするなど、職員の質を担保する仕組みを設けるべきです。
6 地域包括ケア会議の運営に関する留意点について 地域包括ケア会議の運営にあたっては、以下の点に留意し、定期的な検証をすべきです。 ・地域ケア会議の個別ケース検討においては、事例を提供する介護支援専門員に過度の業務的負担が生じないように配慮されること ・個別ケースの検討にあたっては、介護支援専門員のケアマネジメントを支援する体制を整えた中で会議の進行がなされること ・個別ケースのケアマネジメント支援を通し、「地域課題の把握」から「地域づくり・資源開発」「政策形成」への流れが形式的なものに終わることなく、要介護高齢者の暮らしを支え続けるために必要な社会資源の充実に繋がるよう実施されること
7 保険者機能の強化は専門的知識を有する職員の増配置を前提に 居宅介護支援事業者の指定を市町村が行うことができるようにするなど、保険者の機能強化が求められていますが、それに伴い区市町村間の格差が生じないよう対策を講じることが前提になると考えます。 その一つとして、各区市町村の介護保険所管課に介護保険に関する専門的知識を有する職員配置を基本とすることなど、保険者機能の向上・安定化に向けた支援策を図ることを強く要望いたします。
8 医療職と介護職の相互理解を深める学習機会の確保を 地域包括ケアシステムの確立のためには、介護職と医療職の連携強化は必要不可欠であるが、未だ相互理解を深める学習の機会が整っていないことによる誤解などが生じています。その結果、介護と医療の連携体制が構築できず、利用者に対する適切なチームアプローチに繋がっていないのが多くの地域での現状です。したがって、今後介護と医療の連携をさらに促進するための仕組みを強化すべきと考えます。 そのためには、医療職の育成カリキュラムにおいても、介護保険法に位置付けられている医療と介護の連携の目的、介護支援専門員の役割、チームアプローチの促進等、介護保険制度を学習するための科目を加えていただきたいと思います。それに加えて、在宅医療を担う医療職と共同で学習する機会の創設を強く望みます。
9 施設のケアマネジメントの充実を 介護保険施設における計画担当介護支援専門員と生活相談員や支援相談員との職務上の役割分担が未だ不明確です。施設介護支援専門員の役割は、介護保険発足当時から、施設内においても、地域においても位置づけが曖昧な状況が続いています。今後、地域包括ケアシステムにおいては、施設のケアマネジメントと在宅のケアマネジメントは、一体的・継続的に提供されるべきであり、施設ケアマネジメントが、在宅を支える機能として確立されるための環境整備が急務と考えます。そのためには、地域包括ケアシステムにおける介護保険施設の役割を明確にするとともに、計画担当介護支援専門員が行うケアマネジメントを施設サービス費とは別に評価する仕組みを設けるべきです。 また、施設においては、施設の運営方針によってケアマネジメントの具体的な実施方法が左右される実態があります。施設ケアマネジメントのあり方が、利用者の生活にとって不利益とならないよう、施設においても公正中立なケアマネジメントを評価する仕組みが講じられるべきです。
東京都は、2025年に向けて、全国でも類をみない超高齢大都市に変貌していくことが確実となっています。私たち東京都の介護支援専門員は、自らのケアマネジメントを真摯に振り返るとともに、これから求められるケアマネジメントのあり方に責任と危機感をもって意識改革をしていかなければならないと考えています。そのためにも、私たちは、国、都道府県、区市町村と一体となって、東京都の要介護高齢者を支える地域包括ケアシステムの基盤整備に全力を注ぐ決意です。
以上
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